ROCKY CUPとCASCADE CUP
(2023/2 Update)
ROCKY CUPとCASCADE CUP、そしてOZARK CUPは、Charles A. Hillが残してくれた偉大なる遺産である。「ロッキーカップ」と言えば、いまや深型のシェラカップの代名詞ともなっているが、これらが放つ存在感は圧倒的と言える。もちろんコレクターズアイテムとしても人気は高く、近年の高騰ぶりはコレクター泣かせである。同時にバリエーションの網羅も難しく、自分も全種類コンプリートのゴールは見えない。
ROCKY CUP
ROCKY CUPには、何種類のバリエーションがあるのか。サイズとしては1Ptと1/2Ptがあり、製造時期によってPatent Pending期のTMモデルとPatent取得後のRモデルに大別される。これくらいはご存知の方も多いだろう。この他にも、時期によって目盛りの形状が異なる、最も初期のものにはLid attachmentが付いている、といったディテールの違いもある。さらにはイレギュラーものが存在し、これがバリエーションの全貌が掴めない所以となっている。
1Ptのバリエーション
TMモデル
TMモデルには、
PINT
ROCKY CUP™
MADE
IN U.S.A.
PAT.PEND.
の刻印がある。
TMモデルは、ROCKY CUPの右肩にTMが付いていること、あわせてPAT.PEND.の刻印があることで識別できる。
また、目盛りは、
-1
-3/4
-1/2
-1/4
となっている。(これをここではシングル目盛りと呼ぶ。)
TMモデルの中でも最も初期のものと思われるのが以下であり、Lid attachmentが付いているのが最大の特徴である。
[1Pt、TM、シングル目盛り、Lid attachment付き]
次に続くのが、以下のLid attachmentがないものであるが、最初からないのか、取れてしまったのか、区別する方法は分からない。
[1Pt、TM、シングル目盛り]
Rモデル
Rモデルには、
PINT
ROCKY CUP®
MADE
IN U.S.A.
PAT.NO.D288884
の刻印がある。
Rモデルは、ROCKY CUPの右肩にRマークが付いていること、あわせてPAT.NO.D288884の刻印があることで識別できる。
目盛りは、シングル目盛りの他に、以下のようなもの(ここではダブル目盛りと呼ぶ)がある。
PT 1-
-400ml
3/4-
-300
1/2-
-200
1/4-
-100
TMモデルから続くシングル目盛りのものが以下である。
[1Pt、R、シングル目盛り]
Rモデルから新たに登場したダブル目盛りのものが以下であり、これが1Ptとしての最終形となる。
[1Pt、R、ダブル目盛り]
イレギュラー
上記のTMモデルとRモデルの基本バリエーションから外れた、イレギュラーなタイプも実在している。これらは、本来であれば検品で撥ねられるべき刻印もれだろうと想像する。
まずは底面のROCKY CUPの刻印がないもの。Lid attachmentが付いているので、最も初期のものであることは間違いなく、ROCKY CUPとして正式発売される前のものではないか、という妄想も広がる。
[1Pt、ROCKY CUP刻印なし、シングル目盛り、Lid attachment付き]
もう一つは目盛りが付いていないもの。当初は、シングル目盛りの前に目盛りなしの時期があったのではないかとも考えたが、これはRモデルということもあり、刻印もれの可能性が高い。
[1Pt、R、目盛りなし]
1/2Ptのバリエーション
TMモデル
1/2Ptは、写真の具合によってはサイズ感が掴めず、1Ptとの判別をつけづらい場合があるが、底面の刻印でPINTの文字があれば1Pt、なければ1/2Ptと区別できる。
1/2Ptにおいても、TMモデルはTMの刻印とPAT.PEND.の刻印で識別される。
また、1Ptと同様に最も初期と思われるものにはLid attachmentが付いている。
[1/2Pt、TM、シングル目盛り、Lid attachment付き]
これに続くのが、Lid attachmentがないものである。
[1/2Pt、TM、シングル目盛り]
Rモデル
1/2PtのRモデルも、Rマークの刻印とPAT.NO.D288884の刻印があるが、TMモデルと比べると、カップ底部のエッジに丸みがあることも特徴となっている。
目盛りは、シングル目盛りの他に、ダブル目盛りもあるが、1Ptとはサイズが異なることから刻印も以下のように異なっている。
C 1-
-250ml
3/4-
-200
1/2-
-150
1/4-
-100
シングル目盛りのものは以下になるが、ハンドルの位置は個体ごとにまちまちである。
[1/2Pt、R、シングル目盛り]
ダブル目盛りのものは以下になるが、この時期のものはRマークの刻印の右上部分が欠けている点に共通性があり面白い。
[1/2Pt、R、ダブル目盛り]
CASCADE CUP
CASCADE CUPは、ハンドルが折りたためるフォールドタイプになっているのが特徴である。
CASCADE CUPにも、ROCKY CUPと同じように多くのバリエーションが存在する。1Ptと1/2Pt、TMモデルとRモデル、目盛りの形状、Lid attachment(CASCADE CUPではHandle attachment)の有無、といった違いは、ROCKY CUPと似ているが、この他に上部のリムの形状にもバリエーションが見られる。
また、CASCADE SYSTEMと呼ばれる、弦(BAIL)と蓋(LID)が付属するものがある。
1Ptのバリエーション
TMモデル
TMモデルには、
PINT
CASCADE-CUP™
MADE
IN U.S.A.
PAT.PEND.
の刻印がある。これは名前の部分を除きROCKY CUPと同様である。
(当SierraCup図鑑ではCASCADE CUPと表記しているが、刻印上ではハイフンがついたCASCADE-CUPとなっている。)
一方で、シングル目盛りについては、ROCKY CUPと少し差異がある。
-1PT
-3/4
-1/2
-1/4
となっており、PTの刻印がある点が異なっている。
TMモデルについては、以下のタイプしか確認できていない。TMモデルなので、CASCADE CUPとしては一番古いものとの仮説が立てられるが、備えている他の特徴について見ると、系統進化の考え方からみた予想をはずれたところがあり、バリエーションの変遷を追うのは難しいものだと感じる。これについては後述したい。
[1Pt、TM、シングル目盛り 、Handle attachment付き]
Rモデル
Rモデルには、
PINT
CASCADE-CUP®
MADE
IN U.S.A.
PAT.#4,593,833
の刻印がある。
目盛りについては、ROCKY CUP同様に、シングル目盛りとダブル目盛りが存在する。
ちなみにダブル目盛りは、前述のシングル目盛りとは異なり、ROCKY CUPと共通である。
以下、バリエーションを列記する。
[1Pt、R、シングル目盛り、Handle attachment付き]
[1Pt、R、シングル目盛り]
[1Pt、R、ダブル目盛り]
また、上部のリムが折り込まれていないタイプも存在している。(ここではオープンリムと呼ぶ。)
イレギュラーとみるか悩ましいが、1/2Ptでも存在し、またOZARK CUPもこの形状であることから、一つのタイプとみなすことにする。
[1Pt、R、 シングル目盛り、オープンリム、Handle attachment付き]
イレギュラー
これはとっておきのイレギュラーと言えると思うが、CASCADE CUPの形状で、底面にROCKY CUPの刻印があるものが存在する。これについては日本のブログサイトでの言及もあり、一定数存在したことが窺える。
CASCADE CUP型のフォールドハンドルはついているが、リムの巻き込み方やPTのつかないシングル目盛りを見ると、ボディは完全にROCKY CUPのものであり、よく見るとROCKY CUPのハンドルがカットされているのも分かる。
[1Pt、ROCKY CUP刻印(R、シングル目盛り)]
CASCADE SYSTEM
弦(BAIL)と蓋(LID)が付属するCASCADE SYSTEMについては、この1種類のみを確認している。
[1Pt、R、シングル目盛り、BAIL付き)
1/2Ptのバリエーション
TMモデル
1/2PtのTMモデルは、そもそも存在するのかどうかという点から未確認である。
Rモデル
1/2PtのRモデルは、今のところ2種類存在を確認している。
刻印は、
CASCADE-CUP®
MADE
IN U.S.A.
PAT.NO.4593833
となっていて、1Ptではパテントナンバーの表記に#と,が使われていたが、ROCKY CUPと同様の表記となっている。
また確認されている2種類とも、目盛りなし、オープンリムとなっている。
以下、バリエーションを列記する。
[1/2Pt、R、目盛りなし、オープンリム、Handle attachment付き]
[1/2Pt、R、目盛りなし、オープンリム]
OZARK CUP
OZARK CUPについては、情報がさらに少ない。ハンドルがプレート状のフィックスハンドルになっているのが特徴である。
1/2PtのTMモデルのみを確認している。
系統進化に関する考察
ROCKY CUPやCASCADE CUPのバリエーションについて、各々が持つ特徴の変遷から、どのような時系列で生まれたのかを考えたい。
基準となるのは、Patentの申請・許可の時期である。
関連するPatentを順に見てみると、
ROCKY CUPに刻印されている[USD288884](Drinking cup)は、1984/6/29申請、1987/3/24許可、
ROCKY CUPのLIDに刻印されている[US4519520](Vessel lid attachment)は、1984/8/20申請、1985/5/28許可、
CASCADE CUPに刻印されている[US4593833](Vessel handle attachment)は、1985/9/26申請、1986/6/10許可、
となっていることが分かる。
まず一番分かりやすいのは、TMモデルとRモデルであるが、これはTMモデルからRモデルにシフトしたことは自明である。
次に目盛りだが、ROCKY CUPの1Pt、1/2Ptともに、ダブル目盛りはRモデルのみに存在することから、シングル目盛りからダブル目盛りにシフトしたことは間違いない。
ROCKY CUPのLid attachmentについては、TMモデルにのみ存在することから、[USD288884]のPatent Pending期のある時期から省かれるようになったと推測される。
CASCADE CUPのHandle attachementについては、その省略時期は[US4593833]のPatent取得後のある時期ということになる。なぜならCASCADE CUPのTMモデルとRモデルの境界は [US4593833](Vessel handle attachment)であるからである。実際に、RモデルのHandle attachement付きも存在している。
ROCKY CUPとCASCADE CUPの成立順序であるが、Lid attachment/Handle attachment付きのものは初期に見られ、その後、省略されていることも考え合わせると、それぞれのPatent申請年から見て、まずROCKY CUPが生まれて、そこからCASCADE CUPが派生したと考えるのが自然である。
1Ptと1/2Ptの成立順序は、まず1Ptがあり、そこから1/2Ptは派生したとみている。1/2PtのROCKY CUPでLid attachment付きのものが見つかっていないこと(※)、1/2PtのCASCADE CUPでTMモデルが見つかっていないことなどがその理由である。
※ その後、1/2PtのROCKY CUPにもLid attachment付きのものが見つかったことから、理由としては弱くなった。引き続き確認を行いたい。
CASCADE CUPに見られるオープンリムは、少し難しい。当初はオープンリムからクローズドリムに変化したのかと考えていたが、TMモデルのクローズドリムとRモデルのオープンリムが見つかり、その仮説は崩れた。現時点の新たな仮説は、当初はROCKY CUPと同様にクローズドリムだったが、ある段階でオープンリムが生まれたという考え方である。ROCKY CUPは、ワイヤーのハンドルをリムで巻き込むことで形作られるのでクローズドリムでなければならないが、CASCADE CUP/OZARK CUPでは構造上その必要性はない。だったらオープンのままでいいんじゃないか、ということになったのではないだろうか。その時期は、1Ptから1/2Ptが派生した頃、あるいはOZARK CUPが生まれた頃が想定される。ただし、オープンリムは一時的なもので、またクローズドリムに戻ったことになる。なぜなら、ダブル目盛りのクローズドリムが存在するからである。
以上は、これまでのコレクションから導き出した仮説で、今後新たなバリエーションが確認されるとまた見直しが必要になるかもしれない。こういう想像をすること(しつづけること)が、コレクターの楽しみとも言える。